その色の強さは、半分はゾっとするほどで、一気に目が覚めてしまった。

先日のこと。
最近、スタミナの衰えを感じていたので「これじゃいかんなぁ」と、試しにこの場所から京都までを自転車で走ってみた。
シングル固定ギアのまま、大きな山をふたつも越えて、三条大橋に到着したので約50分。
「我ながら、なかなかの体力じゃないか」と自己満足に酔い、そのまま調子にのって、「君の調べ物の参考になるだろうから」と譲り受けたチケットを握りしめ、市内で行われているインカ帝国展に向かった。
天空の都市マチュピチュで知られる謎の多いインカ文明が、現代ではここまで解明されてきているのかと驚きながらも、1人で興奮気味に展示品を見て回る。
もっとも興味深かったのは、インカには文字がなかったという事実。
まぁ当然、言葉はあったのだけど「それでも、この時代に文字をもたない文明があるなんて、やはり独特であるなぁ」と感慨にふけってしまう。
言葉とは、文字とは、人間を「未来に向かせる」ことに成功した。
同時に、言語がなければ、人間は「死の恐怖」を舐めることもなかったのだとも考えられている。
あぁ、またこんな話題を書いてしまったら、「たまに、わけわからんこというから」と、周りから眉をひそめられるので……話しを戻します。
とにかく。
インカ展にしきりに頷き、じゅうにぶんに満足した僕は、そのまま続けて800円という少しお高い「トンテキ定食」を思う存分に堪能し、また山をふたつ越え、今度も50分の時間で家に戻ってきたのだ。
そして、翌日に倒れた(バタンキュー)。
どうやら、疲労の蓄積で免疫が弱っていたところに、練習でつけた傷から雑菌が侵入し、全身にイタズラをしているらしい。
「これは、医者のいうイタズラのレベルを超えている」と納得がいかないのは、僕が昭和生まれで、雑菌が平成育ちのジュネレーションギャップなのだろうか。
元々、小さい頃からよく高熱を出して、飯もろくすっぽな量を喰らわず、白昼夢を見ては親に心配をかけていた『典型的虚弱欠陥児童』の私は、現在の見た目に反して、いたって変わらず病弱のままである。
結果。近しい友人たちから「筋肉の紙粘土をつけたモヤシ」という、ありがたくもない称号をいただいたわけだ。
そんな虫の息であった僕も、「糊口をしのぐためには、なんとか本日中に仕上げてしまわなければいけないものがあるのだ。」と、半ばやけっぱちで書斎に入り、陽の光を浴びようとカーテンをめくった矢先、件の花の、その紅が、網膜に届いてきたのだ。
赤は、色の中では一番速い。
頭がすこし朦朧とした中、その強引なまでの主張に、僕の細い目も倍ほどは縦に伸びただろうか。
思わず降りていってカメラで、ぱしょん。
最近の携帯は便利であるなぁ。
加工すれば、己のボケた脳に映った色合いに、限りなく近く再現できる。
踵を返すと、そこにはローズマリーの群生。

「最初は料理に使うハーブを増やすつもりで、ところが、今やここまでスペースを埋め尽くしてしまった」と聞いている。
ハーブってのは、言い換えれば雑草。 その逞しさとふてぶてしさは、気持ちよく感じる時さえある。
高校時代の最後の時期、『クラスの一番王子様な人アンケート』という意味不明のアンケートの端に添えられた『クラスで一番雑草のような人』という、さらに意味不明な項目で、圧倒的1位を獲得した経歴のある者には、他人、いや他草の気もしない。
とはいえ、僕の身体の中の雑草(雑菌)も、いまやこれくらいの大胆さで、主人の内側を喰らい尽くすのではあるまいな?
そんな奇妙な心持ちになって、試しにローズマリーに喰われた気分を味わってみようと、重い頭を群生の奥まで突っ込んでみる。
むせ返るほどの肉消しの香りと、突然の乱入者に驚き踊ろき、方々へ散っていく虫たち。
「何してるの?」
頭をズッポリと抜き、声の方に振りかえれば、この庭を近道に使っている小学生の女児が驚いている。
「やぁ、ちょっとね。ローズマリーに喰われそうだったんだ。君も気をつけたまえよ。」
そう応えると「きょっきょきょ」と、さえずりにも似た音階で、笑ってくれた。
さて、そろそろと体調を戻しつつ、本番は快調に迎えたいと思います。
5月4日の中之島ABCホールでお待ちしております。
いらっしゃったみなさんも、笑ったり、なんだりしてくれると幸いです。